A.通算される

 

 労働時間を通算することは『労基法38条』ではっきり明記されているので問題はないのですが、ここで問題となるのが『残業した時には誰が割増賃金を支払うのか?』なのです。
 すなわち、『所定労働時間(あらかじめ決められた労働時間)がA社で6時時間勤務した後にB社で2時間勤務するために合計8時間である』といった社員がいる場合に、『A社で7時間勤務したので合計が9時間になった』とか、『B社で3時間勤務したために合計が9時間になった。』といった場合に誰が割増賃金を支払うのか?という問題です。

 結論:労基法での定めがない
  ②3つの考え方がある

 3つの考え方とは以下のものです。
 
①法定外に使用した事業主は割増賃金を支払わなければならない。(通達)
 ②その労働者と時間的に後に労働契約を締結した事業主と解すべき。(コンメンタール)
 ③その労働者を労働させることによって残業させることとなった使用者が違反者となる。(有泉亨「労働基準法」)
 

 もともと定めがないので我々の立場としては、このような問題が起こらないように心掛けなければなりません。どうすればこのような問題が起こらないのでしょうか?知りたい方は→お問い合わせ(笑)
 

 この問いについては、結論が出ないのでいったんここで終了しますが、この問題については私の持論を交えて考えてみます。少々話しが小難しくなりますが、ご興味のある方はどうぞ。ご参考までに・・・

 

 それでは一つ一つ考えていきましょう。
   ケース1)所定労働が1日の中でA社で6時間、その後B社で2時間。『1日8時間』
   ケース2)所定労働がA社では月〜金(1日7時)、B社日曜日(1日5時間)。『1週間40時
        間』
   また、いづれのケースも
     (1)労働契約の順番はA社→B社とします。
     (2)変形労働時間制を採用していない
     (3)週の起算日、法定休日の特定は無し
   とします。

 

 ①の考え方であると、
  ケース1)では、
   A社で7時間労働した日には、B社が1時間の割増賃金を支払わなければいけません。
  ケース2)では、
   B社で6時間勤務した週には、A社が1時間の割増賃金を支払わなければなりません。

 

 ②の考え方であると、
  ケース1)では、   
   A社で7時間労働した日には、B社が1時間の割増賃金を支払わなければいけません。
  ケース2)では、
   A社で月曜日に8時間労働した週には、B社で1時間の割増賃金を支払わなければいけません。

 ここで違和感を覚えるのはなぜでしょう。
 そうなんです。①や②の考え方では、A社の指示命令で労働しているのに割増賃金を支払うのがB社であったり、B社の指示命令で労働しているのに実際の割増賃金の支払いはA社だったりするからです。

 

 では、③の「その労働者を労働させることによって残業させることとなった使用者」という考え方はどうでしょうか。
 上記①や②のような矛盾はなくなります。③は「通常は発生しないはずの残業を新たな指示命令により残業を発生させてしまった使用者に支払い義務がある。」という考えですから。
 しかし、この考え方だと休日が特定されていない時に用いられる暦日・歴週的な考え方が一切なくなってしまいます(①の考え方)。すなわち「実際に行っている残業時間の労働に対して割増賃金が発生していない。」ことになってしまいます。
 ケース1)で考えると、
 A社で8時間労働した場合、疲労が蓄積された状態でB社で2時間業務を行うことになります。この時、実際に行っている長時間労働に対して割増賃金が発生しないことになってしまうのです。

 

 それでは原点に戻ります。そもそも割増賃金の趣旨なんでしょう。
   (イ)
法定労働時間と週休制の維持
   (ロ)過重な労働に対する労働者への補償     です。

 

 この割増賃金の趣旨を踏まえて私個人の意見としては、
 『もともと決まっていた所定労働時間(8時間以内)に対し、法定時間・週休制を維持できなくなるような、後から残業の元となる労働を指示命令した使用者が、過重な労働に対する労働者への補償を行う義務がある。すなわち割増賃金を支払う義務がある。』が妥当のような気がします。

 あくまでも個人の意見です。(笑)

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